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小さな会社のM&A
 

M&Aは大はやりだが、本書は「小さな会社の」というところに特徴がある。
例えば、大企業は「継続企業(ゴーイングコンサーン)という概念で経営を考えるが、経営を主催する者(オーナー)を頼りにする小さな会社では社長が60歳、70歳になると気力、体力が衰えて会社経営自体に危機が生ずる。
こうなると、経営の承継がない限りは廃業ということになるが、廃業のための賢いノウハウが必要となる。
廃業ではなく、承継を選択する場合でも、子息が承継する場合に生ずる様々な問題を処理する能力が必要となるから、この場合は子息が承継に必要な知識を学ばなければならない。
同じ承継といっても、第三者が承継する場合はM&A(社長が持株を譲渡し、経営権を第三者に譲る)となるのだが、この場合も上手なM&Aの手法を学んでおかなければならない。
現在のように会社経営を巡る経済構造の変化が著しい場合は、子供に会社を承継させるといっても、経営を委ねられた子供が経済構造の変化に耐えられない(経営革新をする能力がない)とすれば、思い切ってM&Aで会社を続けるほかはない。
この場合、どのような会社なら売れて、どのような会社は売れないか、売却の値決めの方法、前経営者が株式をいくらでどのような評価で売るか、退職金はどのように算定したらよいのか、相続税対策はどうするかなど問題を解決しなければならない。
一方、会社を買う場合の知識と具体的な手法も検討されなければならない。事業を新たに創立するよりは既にある会社を買ったほうが市場への進出や新分野の進出が有利であり、シナジー効果が期待でき、やがては企業上場へのステップになるかもしれない。
しかし、会社を買う場合は、それなりに会社買収に関する知識を持っていなければならない。
買収計画の立案、実行の方法、リスク分析の考え方、買収会社を含めた経営戦略の決定方法などである。
承知しておいてほしいのは、中小企業におけるM&Aは決してマネーゲームではなく、生きた経営学の実践なのである。
その意味では、本書は実に親切で、様々なケースにおける考え方、実践の方法を教えてくれる。心のこもった書き方がされているという点で暖かい本なのである。そのため読んでいて気持ちがいい。
大企業で行われているM&Aと中小会社のM&Aとは考え方が全く異なる。著者がこの本を“社長が会社の進路について考える時の手引書です”と書いているように、会社を継続させる、M&Aで会社を売る、会社を買うという各ケースについて、経営者が読んでおくべき手引書となっている。
また、本書は中小会社の経営者だけでなく、経営指導を行い、経営者から相談を受ける税理士や公認会計士の実務的な経営書ともなっている。
自信を持って、多くの人達に本書の購読をおすすめしたい。

 

評者 税理士 山本守之先生 出典:税務弘報 2006.3月号
税理士 黒木 貞彦 著
実業之日本社 定価  1,470円(税込) 平成17年11月15日初版第1刷発行